2026.10.15
政策金利1.25%時代の不動産投資。
キャップレートは横ばいでも、イールドギャップ縮小への警戒を
株式会社Space R代表取締役の赤間健太です。2026年9月18日、日銀は政策金利を1.25%に引き上げました。2会合ぶりの利上げで、マイナス金利解除後としては最短となる3ヶ月インターバルでの実施です。今回は、この利上げが不動産投資、特にアセットマネジメントの現場にどう影響するかを整理します。
「金利が上がればキャップレートも上がる」という直感への反例
不動産投資に馴染みのない方の直感としては、「借入コストが上がるのだから、不動産の期待利回り(キャップレート)も上がるはずだ」というものだと思います。ところが、実際のデータはそう単純ではありません。日本不動産研究所「第53回不動産投資家調査」(2025年10月現在)によれば、丸の内・大手町のAクラスオフィスビルのキャップレートは6期連続で横ばい。東京城南エリアの賃貸住宅も、ワンルームで3.7%(2期連続横ばい)、ファミリータイプで3.8%(4期連続横ばい)と、金利の上昇局面にもかかわらず大きな動きを見せていません。
なぜ動かないのか イールドギャップという緩衝材
三井住友トラスト基礎研究所の分析では、この横ばい傾向の要因として、①キャップレートに含まれるリスクプレミアムが金利上昇局面でも圧縮を続けていること、②将来の賃料上昇(NOI成長)への期待が高まっていることの2点が挙げられています。つまり投資家は、金利が上がった分を「利回りを上げる」のではなく、「将来の成長期待を織り込む」形で吸収しているということです。その結果、キャップレートと長期金利の差であるイールドギャップは、過去に類を見ない水準まで縮小しているとされています。
見えにくいリスクは「スプレッド」の縮小
ここで注意すべきは、キャップレートが横ばいだからといって、レバレッジをかけた投資の収益性まで横ばいとは限らない点です。キャップレートが変わらない一方で借入コストは確実に上昇しているため、両者の差である「イールドスプレッド」は縮小し続けています。借入を活用した投資の実質的なリターンは、この差分から生まれるため、表面上のキャップレートが動いていなくても、レバレッジド・リターンは静かに目減りしているというのが実態です。加えて、都心の優良オフィスや住宅のように成長期待で下支えされているエリアと、人口減少が懸念される地方の住宅系物件のように成長ストーリーを描きにくいエリアとでは、この緩衝材の効き方に差が出始めています。
アセットマネジメントの実務的な示唆
既存ポートフォリオについては、市場がすでに賃料上昇を織り込んで評価している以上、その期待通りにNOIを成長させられるかどうかが、これまで以上に評価を左右します。賃料改定・稼働率・運営コストの管理は、利回りが横ばいだからと油断できる局面ではありません。新規取得の検討においては、成長期待が織り込まれやすい都心の優良アセットと、そうした裏付けの乏しい地方・郊外アセットを同じ物差しで見ないことが重要です。そして資金調達においては、さらなる利上げが視野に入っている以上、変動金利一辺倒ではなく、固定金利や金利ヘッジの活用を含めた調達構造の見直しが、これまで以上に意味を持つ局面だと考えています。
不動産アセットマネジメントの支援に携わる立場として、キャップレートという表面的な数字の横ばいに安心するのではなく、その裏側にあるイールドギャップの縮小という構造変化を、クライアントの皆様と一緒に見ていきたいと考えています。