2026.09.21
「SaaS is Dead」論とIPO市場の厳格化。
VCの投資戦略はどう変わるか
株式会社Space R代表取締役の赤間健太です。前回・前々回とVC・PEファンドの基本についてお話ししましたが、今回はその両方に影響を与えている、直近の市場環境の変化についてお話しします。
「SaaS is Dead」論の引き金
2026年2月、AnthropicのAIエージェント「Claude Cowork」「Claude Code」が、ブラウザ・CRM・チャットツール・会計ソフトなどを横断して複数ステップの業務を自律的に実行できることが注目を集めました。単体のSaaSに人が向き合う前提が崩れかねないという受け止めから「SaaS is Dead(SaaSの死)」という言葉が急速に広がり、2026年2月3日にはS&P500のソフトウェア指数が1日で13%下落するという、過去最悪級の急落を記録しました。日本市場でもクラウド会計や名刺管理などのSaaS銘柄が連鎖的に売られています。
個人的には「SaaSが消える」というより「SaaSの役割が再定義される」という見方に近いですが、少なくとも投資家の目線で、単体のSaaSが持つ参入障壁への評価は厳しくなっていると感じます。
同時に進む、IPO市場の厳格化
この動きと並行して、国内のIPO市場も厳しさを増しています。2026年1〜3月の新規上場数は6社と、前年同期(17社)から11社の減少となりました。減少の主要因はグロース市場への新規上場の落ち込みです。以前のコラムで触れた「上場維持基準の見直し(2030年から時価総額100億円以上)」を見据え、主幹事証券会社が上場準備段階から100億円規模の事業性を求める動きも強まっています。
VCの投資戦略はどう変わるか
「短期間で急成長し、SaaSとして早期にIPOする」という従来型のモデルが機能しにくくなる中、VCの資金の向かう先にも変化が見えます。象徴的なのが、2026年に立ち上がった新設VC「BUILD」の1号ファンドです。運用期間を最大18年という異例の長期に設定し、半導体や量子技術といったディープテック領域に的を絞っています。生成AIによって模倣・代替されやすい応用層のSaaSではなく、模倣が難しく時間のかかる基盤技術に、長期の時間軸で資金を投じるという判断だと捉えています。
短期回収を前提としたSaaS投資から、時間はかかっても代替されにくい技術・事業への投資へ。VC・PEどちらの実務にも関わる立場として、この資金の流れの変化は、今後の資本市場を考える上で重要な兆候だと感じています。