2026.11.02
長期金利3%時代のファンド投資。
割引率の上昇は、PEとVCの企業価値評価をどう変えるか
割引率が1%上がったときの現在価値の目減り(株式会社Space R作成の試算)
株式会社Space R代表取締役の赤間健太です。日銀は2026年9月18日に政策金利を1.25%へ引き上げ、10月30日の会合ではこれを据え置きました。長期金利も上がっており、財務省が10月に発行した10年物国債の表面利率は年3.1%と、30年2カ月ぶりの高い水準になっています。前回の不動産編に続き、今回は金利の上昇がPEファンドやVCファンドの「企業価値の評価(バリュエーション)」にどう効いてくるのかを整理します。
金利が上がると、なぜ会社の値段は下がるのか
会社の価値は、その会社が将来生み出すお金を、今の価値に引き直して合計したものだと考えられます。この「今の価値に引き直す」ときに使う率が割引率で、金利が上がれば割引率も上がります。たとえば、毎年10億円のお金を生み、それが年1%ずつ伸びていく会社を考えます。割引率が7%なら価値はおよそ167億円ですが、8%になると約143億円となり、割引率が1%上がっただけで価値は約14%下がります(いずれも仮の数字による試算です)。
しかも、この影響は一様ではありません。冒頭の図のとおり、割引率が10%から11%に上がると、2年後に受け取るお金の現在価値は1.8%しか下がりませんが、20年後に受け取るお金は16.6%も下がります。利益の大半が遠い将来に見込まれている会社ほど、金利の上昇に弱いということです。
PEファンド:借入の効きが弱まり、経営改善の比重が増す
Bain & Companyの「Japan Private Equity Report 2026」によれば、2025年の日本のPE取引総額は4.8兆円で、5年連続で3兆円を超えました。取引総額のおよそ半分を非公開化(テイクプライベート)が占め、2025年に公表された非公開化案件では60〜80%のプレミアムがつく例が多く見られたとされています。同レポートは、日本のPEが米国を上回るリターンを上げてきた理由の一つに、レバレッジ(借入)の高さを挙げています。
PEファンドの買収(LBO)は、買収資金の多くを借入でまかない、その返済と企業価値の向上によってリターンを生む仕組みです。金利が上がれば、同じ会社を同じ値段で買っても、利払いが増えて手元に残るお金が減り、借りられる額そのものも小さくなります。高いプレミアムを払って買う案件が多い中で借入の効きが弱まれば、リターンを支えるのは、事業そのものの稼ぐ力をどれだけ高められるかという経営改善の部分になっていきます。
VCファンド:遠い将来の利益に頼るレイターステージほど影響を受ける
VCが投資するスタートアップは、利益の多くを遠い将来に見込んでいるため、先ほどの図でいえば「20年後のお金」に近い性質を持ちます。スピーダの集計によれば、2026年上半期の国内スタートアップの資金調達額は3,779億円で前年同期比12%増でしたが、大型調達1社を除くと伸びは2%にとどまりました。シリーズCの調達額は24%減り、とくに設立10年以上の企業のシリーズCは143億円から39億円へと73%減っています。SaaS企業のシリーズD以降も47%減でした。
こうした選別の強まりは、金利だけで説明できるものではありませんが、「いつか大きく稼ぐ」という期待だけでは評価されにくくなっている流れとは整合的です。上場前の最終局面にいる企業ほど、売上の伸びに加えて、いつ・どれだけ利益が出るのかという道筋を、具体的な数字で示すことが求められています。
経営者と投資家にとっての実務的な示唆
資金調達や会社の売却を考えている経営者にとっては、金利が低かった時期の評価倍率を前提に交渉を組み立てないことが大切です。同業他社の過去の取引事例は参考になりますが、その当時と今とでは割引率の前提が違います。評価を左右するのは、将来の大きな夢よりも、目に見える形で生み出せるお金の量と、その確からしさになっていきます。
ファンドの側でも、借入に頼ったリターンの組み立てから、投資先の経営に入り込んで稼ぐ力を高める本来の役割へと、重心が戻っていく局面だと考えています。資本市場と経営の両方に携わってきた立場として、金利のある世界での企業価値のつくり方を、クライアントの皆様と一緒に考えていきたいと思います。
出典:日本銀行の金融政策決定会合の公表内容(2026年9月・10月)、財務省の10年物国債の発行条件(2026年10月)、Bain & Company「Japan Private Equity Report 2026」(2026年6月)、スピーダ「Japan Startup Finance 2026上半期」(2026年7月)。図と本文中の計算例は、株式会社Space Rが仮の数字で作成した試算です。